【完】あんな美容師に騙されない!
「……朝比奈。私、行かなくちゃいけないところあるの。本当に離して」
朝比奈は私が強い口調でそう言った途端、表情が一変した。
「あの男ですか? 今日来てた男」
朝比奈は、得体を知らないものを睨みつけるかのようにどこかを眺めていた。
「そうだけど。朝比奈には関係ないことでしょ」
「確かに、僕には関係ないことです。だけど、あんな男の元カレなんて黙ってみてられませんよ。あーもう我慢できない」
朝比奈は右手で私の顎をつかんでいた。
「なっ、なにしてんの!」
あまりにも朝比奈と顔が近くて、私はどう対応すればいいか困った。
だけど、こうして見ると男性だと感じさせられる。
私は朝比奈と向き合っていたので恥ずかしくなり赤面した。
「……可愛いですね。池脇先生」
朝比奈はクスッと笑い、私の口に近づいてきた。
私は朝比奈の一瞬の行為が抵抗出来なくて、そのまま棒みたいに立っていた。
すると、プルプルプルプル
電話が鳴り響いた。
朝比奈の携帯だ。
私から離れて、ズボンのポケットに入っていた携帯を取り出した。
「ちぇ、いいときに。え? なんだって。今日、家に来る?はいはい、分かったよ。じゃあね」