【完】あんな美容師に騙されない!
仕事も終わり、帰ろうとしていた時だった。
「池脇先生」
後ろから聞こえる声は、悲しくて猫に餌をあげたくなるような声をしていた。
「朝比奈……」
私はただ名前を呼ぶことしか出来なかった。朝比奈の気持ちがもう表情に表れていたから。
「池脇先生、ちょっと今いいですか?」
「いいけど…」
私は目すら合わせることもできず、カバンを持っている両手を見つめていた。
私と朝比奈は、数秒間黙ったままだったが、朝比奈が声を発した。
「…昨日のは忘れて。俺と池脇先生は、同期だから。ねぇ?」
「忘れるって……」
今さら、忘れるっていう言葉を言ったとしても、私は脳内から消える訳がない。
下に俯き、私は渋い顔したのか、朝比奈がため息をついた。
「…はあ、やめろよ。その顔。言ってることと俺の思い矛盾してるよ」