獅子王とあやめ姫
 王子に話をしたときは涙は出なかったのに、どうしてまた今泣きたくなってしまうのだろう。

(母さん、もういないんだなぁ……。それを王子様の言葉を思い出して思い出すなんて…私は親不孝者だ。)

 つきりと込み上げてくる胸の痛みを圧し殺すように、自分をいましめた。
 
(テリ…アイアス…。)

 二人は、今どうしているのだろう。

 特にアイアスが気になる。

 あの日はろくに話すことすらできず、結局まだしばらく会えそうにない。

 彼の母は今頃、どうなっているのだろう……。

 故郷の人達を案じていたそのとき、とんとん、と小気味良く部屋の扉を開く音で我に返った。

 はい、と若干上ずった声で返事をすると、愛くるしい顔立ちの少女がひょっこり顔を覗かせた。

 「起きてるかしら?」
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