獅子王とあやめ姫
 そう先程より大きめの声でぼやくイーリスのぶすっとした顔を見て、ロファーロは昨日と同じようにひょいと眉を上げる。

 「おや、昨日よりも腫れが引きましたね。まだまだ熟し柿のような顔ですが。」

 「じゅ、熟し柿って……。」

 「こら、書官。年頃の娘に向かってそれは酷よ。」

 口元に手を添えてたしなめる王女を無視してロファーロはあごをしゃくった。

 丹精を込めて作られたみずみずしい朝食が、ピカピカに磨かれた真鍮の台車に載って運ばれてくる。

 台車を押しているのはパピアだ。 

 目が合うとアヒルのような口角を上げてにっこりと笑う。

 「申し遅れたわ。わたくしはイゼルベラ。パルテノ王国第一王女よ。……無粋な男の言うことなんて気にしなくていいのよ。特にここの書官は書物ばかり読んで乙女の気持ちなんて毛ほども察することが出来ないの。それに今は怪我こそしているけれど、治ればあなたも見られる顔をしていると思うわ。」  

 そう言いつつ、兄上やわたくしが毎朝口にしているのと同じような手の込み方だわ…イーリスに運ばれる食事を横目で見ながら軽く頭を下げた。

 「よろしくお願いします。私はイーリスと申しま__。」
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