獅子王とあやめ姫
 「馴れ合いは結構でございます、イゼルベラ様。

 この娘は訳あってこの城に滞在しておるのでございます。

 以後関わらないようになさって下さい。」

話を遮られてぶすっとするイーリス。

「分かったわ、小生意気な書官くん。」

そんなイーリスに対して、イゼルベラは歯牙にも掛けずに返事をし、目配せをして足取り軽く出ていってしまった。

「お騒がせしました。」

ロファーロが無造作に頭を下げる。

「いいえ、別に…...。」

住んでいる町の朝の雑踏に比べれば、王城の朝など虫の鳴き声ほどだ。

実家を思い出すと、脳裏に死んだ母の顔も浮かんでくる。

母の顔を思い出すとあの日の出来事が蘇り、涙が込み上げてくる。

涙が出てくるのを押し殺しているイーリスを気遣う風もなくロファーロは冷たく言った。
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