獅子王とあやめ姫

「毒見は済ませてあります。早く食べてください。昨日も言いましたが、部屋から1歩も外へ出ないように。」

丁寧な敬語も使わず言い残すと、彼はパピアを引き連れて出ていってしまった。

静まり返った部屋で、1人イーリスは改めて運ばれてきた朝食を眺める。

銀の食器に入ったソーパ(スープのことだ)に、見事な包丁使いで切り分けられた異国の果物...ふっくらと焼き上げられたソミ(パンのこと)は時間が経って少ししぼんでしまっているが、イーリスが町で食べていたものよりは遥かに上等なものだ。

「豪華な朝ごはん。」

静かにソーパをすくい、口に運ぶ。

そのとき朝の光が雲にでも遮られたのか、さっとかげった。

____冷たい。
 
 このソーパも、この部屋も、この城にいる人達も。

母を失ってからというもの、周りの人間が自分に対して鋭い刃のような敵意を隠している気がする。

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