獅子王とあやめ姫
 無愛想なロファーロも、にこにこと愛想よく笑っているパピアも。

あの優しいティグリス王子ですら、プローティスのように裏切るのではないだろうか。

食器を持つ手がカタカタと震える。

涙が視界をにじませ、ぽたりとソーパの中に落ちていった。

母の存在がいかに大きく、自分を守ってくれていたかが身にしみる。

(お母さん…私、これからどうなるの…...。)

ぽつんと取り残された広い部屋でイーリスは一人、冷めた豪勢な朝食を音も立てずに口に運んだ。


* * *


フィストス様から申し付けられていた朝の雑務を終え、ロファーロはため息をついた。

ロファーロは左大臣直属の一級書官。

机を並べている同僚達の間をすり抜けて、彼は書官室のドアを開けた。

一級といえど、書官は大臣1人では負えない、こぼれ落ちた仕事を片付ける雑用係である。

この国全土から送られてくる行政書類に目を通し、判を押すのが書官たちの朝の仕事であった。

しかしその中でロファーロだけは違っていた。
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