獅子王とあやめ姫
朝の光が差し込む、既に掃除が済んだ静かな廊下を歩きながら彼はフィストスに言われた言葉を思い返していた。

__良いか。あの娘から目を離すな。

ロファーロはフィストスの「密偵」としての役割を果たしていた。

水面下で熾烈な派閥争いが繰り広げられるこのパルテノ国王城。

国王を抱き込んだ保守派の右大臣の一派と、第一王子ティグリスを筆頭とする革新派の左大臣の一派が日々火花を散らしていた。

お互いが手の内をまさぐり合い、隙あらば蹴落とそうと契機を伺っている。

先日も、右大臣の家臣の一人が過去に犯した汚職を暴かれ左遷となった。

いつ、どこで邪推のネタを掴まれるか分からない。

改めて気を引き締めよ、というありきたりな注意からどんどんとんでもない展開に広がっていったフィストスの話を思い返し、ロファーロは身震いした。

___まさかあの小娘が……。

あの不運な少女のおどおどした態度がロファーロは気に入らなかった。

いや、あの娘の出生や存在そのものが気に食わないのかもしれない。
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