獅子王とあやめ姫
慣れた様子で人通りの多い道を避けるイゼルベラに、イーリスは後ろから問いかけた。

 「ふふ、内緒よ。」

 やがて二人は高級な店構えの衣装店が立ち並ぶ通りに出た。

 よく整備された道路に広い道幅、紅い葉が美しい街路樹など、イーリスの町にはないものばかりが揃っていた。

「さて、イーリス。その頭巾はとらないでね。」 

 イーリスの傷だらけの顔はとても目立つので、彼女は今顔を隠すべく目深に外套の頭巾を被っている。

「これはこれはシートラ様。」

そのうちの1軒の扉を迷うことなくイゼルベラが開けると、もみ手をしながら店主が近付いてきた。

「シートラは私の仮の名よ。」

こっそりとイゼルベラがささやく。

「こちらのお嬢さんに合いそうな靴が欲しいの。訳あって顔は見せられないのだけれど大丈夫かしら?」

「もちろんでございます。」
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