獅子王とあやめ姫
左腕を押さえ、転がり回る店主を冷ややかに見つめ、主犯らしき男がイーリスに向かって静かに言った。

「手当すればすぐに付くだろう。...おいお前、顔を見せろ。」

「...!?」

乱暴に頭巾を剥ぎ取ると、男の1人がケタケタと笑う。

「なぁんだ、この顔!パンッパンじゃねぇか!おい頭(かしら )、こいつですぜ。」

ぐい、と強引に髪を掴まれ跪かされる。

「お前を殺せば俺らは大金が手に入るんだ。お前のひどい顔が目印だったんだよなぁ!」

「おしゃべりが過ぎるぞ。」

部下をたしなめ、頭と呼ばれた男はイーリスに向き直り冷たい視線を浴びせた。

「悪く思うな。首を持ってこいというお達しだ。一瞬で済む。」

「どうして......。」

やはり自分は何者かに命を狙われている。

 いったい誰がこんな、しがない平民の自分をしつこく排除しようとするのだろう。

これからもこういうことが起こるのだろうか。

いや、きっとこれが最後になるのだろう。

(もうダメだ......。)

刃を振りかぶられイゼルベラは悲鳴を上げ、ぎゅっとイーリスは目をつぶる。

カキィ...ン、と不意に金属がかち合う音がして、イーリスは顔を上げた。
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