獅子王とあやめ姫
「今一番考えられるのはラコウン右大臣だな。彼女を僕が権力争いの為に大事にしている駒とでも思っているんだろう。」

その言葉を聞いてひょい、と眉を上げる。

「おや、駒ではないのですか?」

「当たり前だ。彼女は人間だ。駒ではない。......フィストス、お前はどう思う?」

 左大臣の表情を見て、話の流れを少し変えるべく彼に質問する。

「まだ決まった訳ではありませんが、今の状況を考慮するとそう考えるのが妥当でしょうな。...ですがあまり心配なさることはないでしょう。あの娘のことだ。1回痛い目を見ておけば懲りて身勝手な真似は慎むでしょう。」

 「ああ……。」

 そうは言ったものの、心残りはしっかりあるようだ。

すっかり暗い顔になってしまった王子を見かねてか、フィストスは美しい海原の遠くを指さして言った。

「ご覧下さい、魚が跳ねましたよ。それにもう大陸が見えない。」

「本当だ。...パルテノを離れる分、当たり前だがクレータに近付いているのだな。」
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