獅子王とあやめ姫
不意に雲が太陽を隠し、光が弱くなった。

「我がパルテノ国も属国にされぬよう、毅然とした態度で臨まなければな。」

冗談めかしてティグリスは言ったが、その目に浮かぶ強い光をフィストスは見逃さなかった。


* * *


街へこっそり出て襲われてから、イーリスとイゼルベラはすっかり懲りて城外へ出ようというような気持ちはほとほと冷めてしまった。

ただイゼルベラは町娘イーリスに興味津々なようで、イーリスが滞在している部屋に茶菓子やら洋服やらを持ってきて他愛ない話に花を咲かせていた。

ロファーロは、初日に伝えた諸注意はどこへやらといったように不服そうだったが、何か持ち込むなら検閲を済ませてからという条件付きで、イゼルベラだけは特別に入室を許可していた。

今もラトキアから取り寄せた甘い餅菓子をお供にお茶を飲んでいたところである。

「でねでね、本当に大変なのよ。お兄様ったら本当におもてになるんだから。」

磨かれた石の机の向こうから身を乗り出すイゼルベラ。
< 127 / 176 >

この作品をシェア

pagetop