獅子王とあやめ姫
文を書こうと思ったのだが、ロファーロにイーリスに関係しているというだけで身の危険が及ぶ可能性があるからといって却下されてしまった。

彼は1日朝と夜、それに日中の空き時間を見つけてはイーリスの部屋を覗き、不審なことはないか、イーリス達がまた余計なことをしでかさないかを確認しているようだった。

彼が1番、イーリスにとって今のところ底の見えない人物だった。

特に自分に敵意を隠しているかのような視線が苦手だったのである。

「大丈夫よ、あの人はいつもあんな感じらしいわ。」

イゼルベラは歯牙にもかけない様子だったが、ロファーロが部屋の扉を叩く度にイーリスは身構えずにはいられなかった。

そんな窮屈な生活に風穴を開けてくれたのは、やはりイゼルベラだった。

「友達 」になってからというもの、イーリスの部屋に入り浸る時間は長くなり、長い日は朝から晩まで、ということもあったくらいである。

ある日、城の大きな図書室に山ほどある本の中から、イゼルベラが何冊かイーリスが興味を示しそうなものを選んで持ってきてくれた。

身分の高いお嬢さんたちの間で人気の恋愛もの、美味しいソミの作り方、とりあえずこれは知っとけ25の処世術...などどれも面白そうなものばかりだったが、1番始めにイーリスが手に取ったのは植物図鑑だった。

色とりどりの花々が見事な筆遣いで描かれている。

「これはあなたの名前の花ね。」

あやめの花を示してイゼルベラが言った。

「それで私は…これよ。」
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