獅子王とあやめ姫
弔問客の中には指輪のことに触れた人はいなかった。

イーリスに話すことの出来ない、昔の母の知人がこっそり彼女の指に嵌めたのだろうか。

……結局過去の事を話すことなく、母は逝ってしまったのだ。

 「この花がどうかしたの?」

 「いえ…綺麗だな、って思って……。」

 とっさに嘘を付いてしまった。

 「キレイよね。そう言えば庭に少し咲いてたわ…滅多に人が通らない裏庭なんだけど、ロファーロを丸め込んで今度見に行きましょ。」

 「はい!」

 そう良い返事をしたものの、片隅には母の過去への疑問が渦を巻いていた。

腑に落ちない顔で再び図鑑に目を落としたイーリスを、イゼルベラはこっそり横目で見つめているのであった。


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