獅子王とあやめ姫
 本当に上手くいくのだろうかという不安が終止足に絡み付いてくるが、フィストス達は頭の切れる男だと割りきる。

 パピアの見ている前でティグリスと口論し部屋を飛び出したのは寸劇だった。

 イーリスを広い城内で一人にさせ、暗殺者の尻尾を掴もうという算段らしい。

 彼らが姿を現す前に他の者に見つけられては元も子もないと、ティグリスと派手にやり合った後は人がほぼ立ち入らない塔へ隠れていろという指示を受けた。

 逃げ出すだけで喧嘩は別にしなくていいのではとフィストスに進言したが、侍女がより噂を広めたくなるようなネタでないと意味がないといって断られた。

 足を動かしながら、歩く通路どこもかしこも敷かれている絨毯の歩き心地に舌を巻いた。

 (うちの一番高い部屋に引いてあるのなんかよりずっと良いやつだ。ふっかふかだわ。)

 別の塔とこちらを細い渡り廊下が繋いでいるのが窓から見える。

 渡り廊下に出ると、他の館や塔がこちらを見下ろしていた。

 それらに押しつぶされないようにさっさと塔へ渡ると、そこは螺旋階段の踊り場だった。

 硬い石の階段が下へ上へ、ぐるぐるとヘビのトグロのように続いている。

 窓が小さいせいか中は薄暗い。

 人通りが少なくても明るくて解放感のあった今までのところとは違って、この塔は閉塞感があり不気味にすら感じた。

 ふと、壁にぽつんと掛かった一枚の絵が目に入った。

 そこに描かれているものを見た瞬間、ピタリと足が止まった。
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