獅子王とあやめ姫
 一人ではなかった。

 二、三人はいるだろう。

 ティグリスたちではない。

 彼らはイーリスと同じ所から塔へ入ると言っていた。

 足がわずかに震え出すのを感じながら、勘づかれないようにそろそろと階段を上った。

 幸いここにも絨毯が敷かれていて足音を吸い込んでくれた。

 上りながら恐る恐る吹き抜けになっている下を覗くと、上がってくるのはやはりイーリスの知った人間ではなかった。

 「万が一襲われたら、一番上の部屋まで逃げろ。」
 
 ティグリスの一言を思い出し、イーリスは足を速めた。

 見えているてっぺんが随分遠く感じる。

 やっとのことで上に辿り着いた。

 傷みかけたの扉の取っ手に手を掛けたが、予想外のことに心臓を鷲掴みされたようにイーリスは固まった。 
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