獅子王とあやめ姫
 (ティグリスさま!鍵掛かってんじゃん!)

 がちゃがちゃと乱暴な音を立てて取っ手を引くが、この硬い扉はもちろん開いてはくれない。

 足音が下からじわじわとせり上がるように大きくなってくる。

 本当に彼らは自分に危害を加えるつもりで来たのだろうか…実は鍵を開け忘れたのをティグリスさまが思い出して遣いをやったとか…いやそれはないだろう__。 

 そんな虫のいい逃げ道が頭の中に細く走ったが、追い付いてきた男達の顔で洗い流された。


     *   *   *


 「父上が?」

 「は、はい。早急のご用事だそうでこざいます。フィストスさまもご一緒に、と。」

 珍しく苛立ったようなティグリスの返事に、遣いの小姓は顔を強ばらせた。

 一方ティグリスたちはそれどころではない。
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