獅子王とあやめ姫
 思わず漏らしてしまいイーリスは後悔したが、肝心のテリの反応は呑気なものだった。

 「まあ尿意なんて私も第一王子ももよおすから…。」

 「あら、なんて大人な反応!これなら結婚しても平気だね。私なんて恋人すらいないからさ__。」


   *    *     *
 

 上の階できゃっきゃとイーリス達が談笑している頃。

 イーリスの母でこの宿屋の女主人、フレジアは手の震えを抑えきれずにいた。
 
 手に持っている皿がカタカタと音を鳴らす。

 (まさかあの男が今更訪ねて来るなんて…。)

 あの嫌な話し方が耳に入ってきた時、すぐにその主が誰なのか分かった。
 
 顔を見て確認するなど恐ろしくて出来なかったが、声だけで充分だった。

 (でもどうして今頃?もう16年もたっているのに。)

 外の喧騒が潮が引くように耳からすーっと引いていった。

 手元はおろそかになるばかりか、ぶるぶると震え始める。
 
 手から皿が落ちた。

 
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