獅子王とあやめ姫
 侍女がぱたぱたと庭を横切ってくる。

 「こんなところにいらっしゃったんですか!トリーフィアさまが探してらっしゃいますよ。」

 自他ともに厳しいことで有名な教育係の小言を想像し、イゼルベラはげんなりする。

 やれやれとしゃがんでいた腰を上げようとすると、複数の慌ただしい足音が上の渡り廊下から響いてきた。

 「お兄さま!」

 待っているであろうお小言のことは瞬時に飛び去り、弾けんばかりの笑顔で手を振ったが、兄はこちらには一瞥もくれず部下達と共に塔の中へ吸い込まれるように走っていってしまった。

 なんなの、と呟くと同時に重い塊が腹の底からのしあがってくる。

 「ティグリスさま、随分と鬼気迫るお顔をなさってましたね……。」
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