獅子王とあやめ姫
 侍女の言葉で、もくもくと膨れ上がっていた苛立ちが影をひそめた。

 確かにそうだ。

 兄のあんな恐い顔は久しぶり…いや初めてかもしれない。

 何か、あるのね。

 「どちらへ!?」

 突如駆け出した王女に慌てて侍女は声を掛けたが、時すでに遅し、塔の暗い入り口に呑み込まれた後であった。

 
    *   *   * 


 口の中がひどく痺れている。

 ものすごく苦い固まりをあの男たちに口の中に押し込まれると、ビリッと電流のようなものが口内に走り、それが染み込むように広がってじわりじわりと酷くなってきていた。

 後からやってきたロファーロに無理矢理喉の奥に指を突っ込まれ、飲まされたものを何とか吐き出した後も体がどんどん蝕まれているのが分かった。
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