獅子王とあやめ姫
 心臓があぶられたように熱くなって信じられない程の速さで脈打ち、まるで何かが体の中で全力で走り回っているようだった。

 痺れで感覚を無くし自由に動かない口からだらしなく唾液が流れ出す。

 (ティグリスさま…早く来て……。)

 なんとか息をしながらティグリスが来るはずの階段へ目を動かそうとしたが、視界が回って定まらない。

 横たわっている床の冷たさが、ジワジワと背中から染み込んでくる。

 自分が段々、死の淵に下りつつあるのが分かってきた。

 もう、助けを求める声も、出なかった。


     *   *   *


 「イーリス!」

 毒にどんどん侵されている彼女を抱き起こし、後から追ってやってきた医師を強ばった表情で見上げる。
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