獅子王とあやめ姫
膝に石畳からの衝撃が直に走り、イーリスは思わず呻き声を上げた。
 
 道の両側にある朝市の屋台の低い位置に、ロープが渡されていたのである。

 これにつまずいて転んでしまったのだ。

 まさかこれは計算されていたのだろうか。
 
 あらかじめこんな罠を仕掛けていたのだろうか。

 男が追いついて来る。
 
 痛みと、何より恐怖で立ち上がれない。

 座ったままイーリスは後ずさりした。

 男の懐から取り出された短剣が月明かりで鈍く光る。
 
 イーリスは全身の血が引いていくのを感じる。 

「た、助けて…。」
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