獅子王とあやめ姫
 助けてもらった人に名前も教えないなんて!

 イーリスは自分の不行き届きを恥じた。

 「イーリスと申します。ごめんなさい、助けてもらったのに名乗らないなんて。」

 「殺されかけてたんだから無理もないよ。俺はプローティス。イーリスも大変だね、縁談持ち込まれた日に辻斬りに襲われるなんて。」

 律儀に言い直すプローティス。

 そうこうしているうちに荷馬車の馬の匂いや揚げ物の油の匂いが漂ってきた。

 市場に入っていたのだ。
 
 夜市が開かれているここはさすがに賑わいがある。

 イーリスたちは面倒な奴にぶつからないように一本裏の道を進んだ。
 
 

 自分の家の看板が見えた時、イーリスは心の底からホッとしたのを実感した。

 命の恩人に改めて向き直り深々と頭を下げる。

 「本当にありがとうございました。うち、宿屋と酒屋を兼ねているんです。大したおもてなしはできませんが、良かったら少し寄って行って下さい。」

 「えっ、宿屋?」

 
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