獅子王とあやめ姫
 「こんなちっちゃいときから知ってるイーリスが嫁に行っちまうと思うと淋しくってなあ。商いに疲れてここに呑みに来ると女将さんの美味い飯を運んでくれてたのに…なあ。」

 うう…と嗚咽を漏らし始める馴染み客のおじさん。

 その涙に釣られてか、イーリスやフレジアの目頭も熱くなった。 

 「おい、みんな聞いてくれ!イーリスがついに嫁に行っちまうんだとよ!相手はこのプローティスだ!二人の幸せを願って乾杯しようぜ!」

 嗚咽を飲み込んでおじさんが声を張り上げる。

 おお!と歓声が上がり、今日が初めてのお客さんも杯を掲げてくれた。

 ついに母が涙を流し始めた。

 おろおろとなだめながら、イーリスは心がふわふわと浮き立ちそうなほどの幸せな気持ちに浸っていた。
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