獅子王とあやめ姫
 「本当に幸運だなあイーリスは。」

 馴染みのおじさんは酔うと同じことを繰り返す質らしく、17回もこんなことを言っている。

 どういうわけか特別に同席させてもらうことになり、イーリスはサラマンダを搾った果汁をちびちびと口に運んでいた。
 
 時折プローティスと目が合い、気まずいやら照れ臭いやらで、飲んでいた果汁の味も満足に分からなかった。

 夜も深まり、宿泊客以外はほとんど帰ってしまって先程の賑わいは影を潜め、しみじみと酒を仰ぐ客ばかりだった。

 「ところでプロドシア殿、パルテノに支店を出すならどこへ出すつもりなんだ?」

 「まずはなるべくここ以外の港町だな。商品の運搬費がかからない。嫁のツテを頼ってルマニかタラサかパラリア辺りだろうなあ。治安はどこが一番__。」

 プロドシアと言うのか。

 結婚すれば私にはプロドシアという名字がつく…そうぼんやりと考えていると、プローティスが口を開いた。
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