獅子王とあやめ姫
 「ありがとう…!でもどうして…?」

花を受けとりイーリスが尋ねると、プローティスは照れくさそうに頬を掻く。

「いや、うちにちょうど花束が届いてさ。そのうちの一輪。ほら、この前花が好きって言ってたろ?」

それはプローティスに命を救われ、急に結婚が決まったあの日のことだった。

趣味はないのかい、とプローティスの父に尋ねられ、強いて言うなら花を見るのが好きと答えたのだ。

(他にも沢山話したのに…あんな些細なこと覚えててくれたんだ……。)

「ほんとにありがとう。」

「喜んでくれて良かったよ。…じゃ、俺はそろそろ行くから。」

うん、と返事をして許嫁を見送るイーリスの笑顔をテリが覗き込む。

 「いいなあ格好いいじゃん。それに玉の輿!これでお母さんも安心だね。」

 「そうかなあ。テリもフィロスが居るじゃない。その指環ももらったんでしょ?すごく素敵よ?」 

 「まあね。立ちションしてたけどね。」


    *    *    *


 狭いが清潔に保たれた厨房で、イーリスの母フレジアは慣れた手つきで野菜を刻んでいた。

 仕事に集中すべく、無心に手を動かす。 
これから起こるであろう恐ろしい事を考えないようにだ。
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