獅子王とあやめ姫
数日前に突然やって来たあの男。
投げ捨て、目を背けてきた過去からふと忘れたように戻ってきた。
彼が姿を見せたということは、自分たちはじきに“処分”されてしまうということだろう。
大切な娘を奴らの手の届かない所まで逃がし、今までの生活を捨てなければならない。
最悪自分はどうなってもかまわない。
でもなぜ今頃…?
この宿屋もそこそこになってきている。
今ここで何かあれば噂も尾ひれ付きで広まってしまうだろうに。
しかもイーリスをからかう真似までして、何もしないで出ていった。
そして二日前、イーリスが辻斬りに襲われ、おまけに結婚が決まるという奇妙な日の夜、またあの男が店に来たのだ。
日も落ちて大分経つというのに一人でイーリスが買い出しに行ってしまったという話を聞き、心配より怒りが勝っていたフレジアは、揚げ物と煮物と和え物を掛け持ちしながら肉を手荒く叩いて下味を付けていた。
困ります、という給仕の女の子の声が聞こえたと思ったら、無遠慮に彼が酒場と厨房を仕切っている布をゆらりを持ち上げて入ってきた。
「こんなところで、こんな店やってたなんてねえ。」
投げ捨て、目を背けてきた過去からふと忘れたように戻ってきた。
彼が姿を見せたということは、自分たちはじきに“処分”されてしまうということだろう。
大切な娘を奴らの手の届かない所まで逃がし、今までの生活を捨てなければならない。
最悪自分はどうなってもかまわない。
でもなぜ今頃…?
この宿屋もそこそこになってきている。
今ここで何かあれば噂も尾ひれ付きで広まってしまうだろうに。
しかもイーリスをからかう真似までして、何もしないで出ていった。
そして二日前、イーリスが辻斬りに襲われ、おまけに結婚が決まるという奇妙な日の夜、またあの男が店に来たのだ。
日も落ちて大分経つというのに一人でイーリスが買い出しに行ってしまったという話を聞き、心配より怒りが勝っていたフレジアは、揚げ物と煮物と和え物を掛け持ちしながら肉を手荒く叩いて下味を付けていた。
困ります、という給仕の女の子の声が聞こえたと思ったら、無遠慮に彼が酒場と厨房を仕切っている布をゆらりを持ち上げて入ってきた。
「こんなところで、こんな店やってたなんてねえ。」