獅子王とあやめ姫
「ふらっ、と、ほんとにふらっと、町にやってきた。
どこから来たのか、今まで何をしてたのか、親はどうしたのか。
そんなことを町娘男どもに口々に聞かれたが、貝みたいに固ーく閉ざして誰にも教えなかった。
街の同じ年頃の娘達とはちょっと変わった雰囲気のある娘だったな。
金持ちの息子が声を掛けても、てんで相手にしない。
ところがある日、お前が生まれた。
誰との子か、野次馬根性で男も女も聞き出そうとしたが、今度もまた貝になったな。
知っての通りこの町は交易市だから色々な奴がいるが、フレジアは特に何か違うものを持っているように思えたなぁ。」
イーリスへ顔を向け、ふっと笑う医者。
「だが生まれてきた娘を見ると、フレジアも普通の人間だったんだな。」
苦笑するイーリス。
結局この医者も父親のことは話してはくれなかった。
プローティスの所へ嫁ぐ前の夜、思い切ってきいてみようか。
そう考えた瞬間、男の悲鳴が聴こえた。