獅子王とあやめ姫
 イーリスは隣を歩く医者の顔を一瞥して走り出そうとしたが、腕を掴まれ慌てて振り返った。

 「どうして!?今の聴こえなかった?何かあったにちが__。」

 「お前さんこの前斬られそうになったばかりだろう、分からないのか!あの時と同じ奴だったらどうする?お前さんの顔を覚えてるそいつが近くにいるかもしれんのだぞ!」

 しゅんと肩を落とすイーリスに、諭すようにして医者は続ける。 

 「だがまあ私も医者だからな、見捨てるわけにもいかん。付いてきなさい、ただ一人で走り出すなんてことはしないように。」

 一人でっていうか、先生ならすぐ後ろから付いてくるもんだと思ってたんだけど…とイーリスは心の中でぼやいた。


 
 いたぞ、あそこだ、と医者が足を速める。

 もう何人か人が集まっていた。

 医者と共に野次馬の肩をすり抜けて、イーリスは思わず口元を歪めた。
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