獅子王とあやめ姫
 くいくい、と裾を引っ張られる感覚でイーリスは我に返る。

 視線を落とすと、裾を掴んでいるのはアイアスと同い年くらいの女の子だった。

 イーリスより貧しい身なりで、この子もまた痩せ細っていた。

 「どうしたの?」

 しゃがんで目線を合わせると、落ち窪んだ蜜柑色の大きな目が覗き込んでくる。

 「おねえちゃん、イーリスっていうの?」
 「そうだよ。あなたは?」

 その返事を聞いてぱあっと顔が明るくなる女の子。

 「あたしはフィリナ。ねえ、おねえちゃん結婚するんでしょう。」

 いきなり切り出され戸惑いつつ頷くと、フィリナは嬉しそうに続けた。

 「はい、これあげる!」

 ぴかぴかに磨かれた丸い石を渡される。

 「うわあ、ありがとう!」
 「おねえちゃん、おめでとう。」

 フィリナの満足そうな笑顔を見て、私が結婚するよりも贈り物を渡せたことが嬉しいんだろうな、とイーリスは苦笑しながらもこの小さな女の子の事をいじらしく思った。
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