獅子王とあやめ姫
 (テリにもらった靴、結婚式まで取っとくことにして良かった…!)

 だがいつもの履き慣れた靴でもすれて、くるぶしの下が痛かった。

 しかしアイアスが逃げそうな場所は大体検討が付いている。

 入りくんだ裏路地を縫うようにして走り、橋を渡って昼間は人通りの少ない劇場や競技場がある繁華街をわざわざ通ってから貧民街へ。

 遠回りでも、薬を母に飲ませる前に連れ戻されるよりはずっといい。

 きっと真っ直ぐ走れば、追っ手を撒くために回り道を繰り返している彼よりは先に家に着けるだろう。
 
 待ち伏せして彼を説得し、一緒に謝りにいく……謝ったところであの店主が許してくれるとは思わないが。

 ラトキアからの用心棒を雇ったと言っていたが、彼らが昔からの習慣をいまだに実行しているような人間だったらどうしよう。

 少なくともただでは済むまい。 

 (アイアス…やっぱりちゃんと全部話しておけば、こんなことには…!) 

 後悔を押し殺しながら曲がり角を曲がった時、信じられないものが目に飛び込んできて、イーリスは思わず立ち止まった。
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