獅子王とあやめ姫
 しまった、鍵を掛けるのを忘れていた、と思いながら振り向くと、そこに立っていたのはプローティスだった。

 「あっ、プローティス!来てくれたの。」

 「うん。あんまり慰めても却って傷付けるだけかなって思ったけど、やっぱり顔見ずにはいられなかった。」

 雨合羽を脱ぎながらプローティスが答える。

「あと、これ。」

彼はイーリスの血の気のない手に白いガリファロの花をそっと握らせた。

「ありがとう…。」

ガリファロはパルテノでは弔事に使われる花だ。

優しさがしんみりと胸の中に染み渡っていく中、イーリスは彼の顔を見つめた。
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