獅子王とあやめ姫
 入ってきたのは二人の兵士だった。

 「お前はここの従業員か?」

 横柄な態度で一人が問う。

 兵士は兵士でも、いつもの町の民衆の安全を守る治安維持兵ではなく、磨かれた鎧をまとう見慣れない城の衛兵だった。

 「はい…そうです。」

 違和感を感じながら、イーリスはさっきの浮わついた気分が潮騒のように引いていくのを感じていた。

 「先日、プロドシアという男とシノモシアという男二人の部屋に夜食を届けに行ったのは誰か分かるか?」

 プロドシア、という名前に反応して傍らにいるプローティスの顔を見上げると、彼の顔は能面のように固く、なんの感情も読み取れなかった。

 その彼の表情を見て、なんともいえないどす黒い不安が腹の底から沸き上がってくるのを感じる。

 「確か、私ですが……。」

 「貴様を国家反逆罪で死刑に処する。」

手の熱でしなびた花が、はらりと落ちた。
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