獅子王とあやめ姫
 被害を受けた店の主人や町のお役人に頭を下げて回り、なんとかアイアスはお許しを得、イーリスたちの宿屋の従業員になったのだ。

 最近は母親の容態もひとまずは落ち着き、アイアスはよく働いた。

 アイアスはイーリスをはじめとした先輩のお姉さま方によくなつき、たまにお客からもらったお菓子を分けてくれることもある。

 気持ちだけもらっとくね、と言いつつイーリスは彼を自分の弟のように思っていた。

 あ、竈の火が!と母親が奥へ引っ込む。
 
 その拍子に食堂と厨房を仕切る布が落ち、もうまた、とイーリスは多少苛立ちながら掛け直した。

 朝の市場やらセリやらに繰り出す人の波も止み、イーリスは食堂の一席に腰掛け一息ついた。

 イーリスの宿屋は食堂が入り口で、客室は一階の奥と二階にある。

 こぢんまりとした宿屋だったが、イーリス達従業員の努力で清潔に保たれていた。

 外の往来に目を向けると、色々な人が話ながら、ソミを食べながら、荷車を押しながら、歩いているのが見える。
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