獅子王とあやめ姫
 「そういえば右大臣たちが昨日から騒がしいが、何かあったのか?」

 「いいえ。殿下のお気をわずらわせるほどのことではございません。」

 厳格なひげ面を崩すことなく即答するフィストス。

 「そうか。ならいいんだ。」

 気にならない素振りをよそおう。
 
 後で噂好きな侍女にこっそり聞くか、と考えて再び書物に目を落としたティグリスだったが、扉を叩く音で顔を上げた。 

 「失礼いたします。フィストス様。」
 「何だ。」

 厳しい声でフィストスが答える。
 
 使い走りの小姓は少し声を震わせながら答えた。 

 「アリシダ様からご伝言でございます。拷問中の罪人がなかなか白状しないので、左大臣にいそいで監獄の方へ来て頂きたい、と……。」
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