獅子王とあやめ姫
 右耳の奥から、ウワァ……ンと犬が唸っているような低い音がひっきりなしに聞こえる。

 熱い。

 痛い。

 苦しい。

 様々な責め苦に、もうイーリスは自分がどんな顔をしているのか想像するのさえ恐ろしかった。

 子供が入れる程大きく、空になった水桶をゴトンと乱暴に床に置き、男が変わらぬ口調で続ける。  
 
 「気絶しようとしても無駄だぞ。何度でも水をかけて起こしてやる。もう一度訊く。プロドシアとシモノシアは何を話していた?」

 「なに、も、話して、いませんでし、た……。」

 殴られて腫れ上がった顔の筋肉と、熱をもって腫れた喉を酷使してなんとか声に出した。

 なかなか口を割らないイーリスのしぶとさに、彼女を牢からここまで連れてきた兵士達は顔を見合わせる。
 
 「左右に石を揺さぶれ。…それでも口を割らないなら爪を剥がせ。」
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