獅子王とあやめ姫
 ふんわりした栗色の髪に、磨かれた琥珀のような瞳は今、かすかに怒気を含んでいた。

 「しかし、この娘は国家反逆罪を犯した__。」
 「たまたま、会合の場に食事を届けただけだろう。らしくないぞフィストス、お前としたことが。」
 
 言いながら、自分の磨かれた靴に床を汚しているイーリスの血が付くのも構わず、彼はイーリスの太ももに乗っている重い石を除き、きつく縛られている手首も自由にしてやった。

 地面に手を付き立ち上がろうとしたが上手く手足に力が入らず、自分の血で滑って転んでしまった少女を見て、青年は長い腕で彼女を抱え上げた。

 「けっ、こう、です…。じぶんで、歩けます、から……。」
 
 「石抱きに掛けられて歩けるわけがない……もう大丈夫だ。」
 
 優しい言い方だったが、有無を言わさぬ口調でもあった。

 (何……私、助かった、の……?)

 呼び止める男達の声が後ろで聞こえるが、青年は構わずイーリスを外へ連れ出した。
 
 密色の陽の光が目に眩しい。

 (ああ……。ただの夕陽を見ただけでこんなにほっとするなんて…。)

 大きな安心感に包まれ、イーリスの瞼は降りずにはいられなかった。
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