獅子王とあやめ姫
階段を下り終えずっしりと重い木の扉を開けると、書物を抱えて自分を待っている男がすぐそばに立っていた。
「扉のすぐ傍に立つな、ロファーロ。」
うやうやしく頭を下げる部下に厳しい顔をする。
「驚かれましたか。」
「何を馬鹿なことを。…で、あの娘は今どうしている。」
部下の軽口を一蹴して事の次第を聞いた。
「ティグリス殿下のお言葉で客間に。気を失ったままですが手当てを受けておりますゆえ、じきに目を覚ますでしょう。早くも噂を聞きつけ他の重臣達も騒いでおるようです。」
うむ、と重々しくうなずいて歩き出した上司を見てロファーロは心の中で微笑んだ。
上機嫌になるとアゴヒゲを撫で付けるという、強面な風貌と厳格な人柄で周りの人間から恐れられているこの左大臣の癖を知っているからだ。
黄昏時に城の長い廊下に灯りを灯して回る召し使いが通り過ぎるのを待ってロファーロが続ける。
「ただ聞き耳を立ててみると、ラコウン大臣は派閥の誰にもあの娘の出生を話していないようです。
ラコウン派の者達はただ王子が罪人を庇ったということで、侍女達と同等のくだらない噂をしていただけのようでございました。」
このロファーロはフィストスの腹心の部下で、表向きは左大臣フィストスに仕える書官の一人であるが、その実フィストスの依頼を受けて王政の裏側を駆け回る役目も担っていた。
塔での右大臣の焦った顔が頭をよぎり、フィストスは鼻を鳴らした。
「やはり今さら先王に娘がいたなどという醜聞を廓大するほど愚かではなかったようだな。……だがそれを反戦派の私に打ち明けるとは、あの狸も引き際を見失ったな。」
「扉のすぐ傍に立つな、ロファーロ。」
うやうやしく頭を下げる部下に厳しい顔をする。
「驚かれましたか。」
「何を馬鹿なことを。…で、あの娘は今どうしている。」
部下の軽口を一蹴して事の次第を聞いた。
「ティグリス殿下のお言葉で客間に。気を失ったままですが手当てを受けておりますゆえ、じきに目を覚ますでしょう。早くも噂を聞きつけ他の重臣達も騒いでおるようです。」
うむ、と重々しくうなずいて歩き出した上司を見てロファーロは心の中で微笑んだ。
上機嫌になるとアゴヒゲを撫で付けるという、強面な風貌と厳格な人柄で周りの人間から恐れられているこの左大臣の癖を知っているからだ。
黄昏時に城の長い廊下に灯りを灯して回る召し使いが通り過ぎるのを待ってロファーロが続ける。
「ただ聞き耳を立ててみると、ラコウン大臣は派閥の誰にもあの娘の出生を話していないようです。
ラコウン派の者達はただ王子が罪人を庇ったということで、侍女達と同等のくだらない噂をしていただけのようでございました。」
このロファーロはフィストスの腹心の部下で、表向きは左大臣フィストスに仕える書官の一人であるが、その実フィストスの依頼を受けて王政の裏側を駆け回る役目も担っていた。
塔での右大臣の焦った顔が頭をよぎり、フィストスは鼻を鳴らした。
「やはり今さら先王に娘がいたなどという醜聞を廓大するほど愚かではなかったようだな。……だがそれを反戦派の私に打ち明けるとは、あの狸も引き際を見失ったな。」