獅子王とあやめ姫
 「具合はどうだ?」

 従者を従えて入ってきた人物に、イーリスは慌てて頭を下げた。

 「本当にありがとうございます。無罪を証明して頂いた上__。」

 「いや、こちらこそ本当に申し訳ない。僕の部下がとんでもないことをしでかして。きみの疑いは晴れたよ。…そろそろ顔をあげてくれないかな。」

 「いえ、このままで……。こんな醜い顔、見苦しくてとても。」

 特に見た目のことは気にしないイーリスも、この腐りかけの柿のような顔ではさすがに恥ずかしくてたまらなかった。

 「第一王子の御前だぞ。礼儀をわきまえよ、小娘。」

 低く厳しい声がして、イーリスは弾かれたように顔を上げた。

 声の主は王子の一歩後ろに下がっている中年の男だった。
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