君の隣
俺は塾へ行く。
いつも通り、熱い討論会・・・。
俺は、先生の隣に座った。
久坂「おなつちゃん遅いなぁ・・・。」
高杉「アイツなら2日ほど休むと言っていた。」
久坂「何で高杉が知ってんの?」
高杉「それは・・・。」
「芸妓をしていた。」一言そう言えばいいのに、言えなかった。
何で俺は、アイツを庇ってる?
不思議な気持ちを抱えて、討論を再開させた。
そして・・・。アイツが言ってた2日を過ぎても、帰ってこない。
何でだ?アイツどこ行ってんだ?まさか、何かあったんじゃ・・・。
高杉「先生、なつは帰ってきましたか?」
松陰「おなつ?いいえ。まだですよ。」
高杉「アイツ、2日で帰るって言ったのに・・・。」
松陰「ははっ。高杉君は、おなつが心配なんですねぇ。」
高杉「違っ!違いますよ!ただ、皆に2日で戻るって言ったのは俺だから、アイツが帰らないと嘘ついたことになるから・・・。それだけです!」
松陰「そういうことにしておきましょう。」
そして、5日後、なつはやっと帰ってきた。
まるで悪びれもなく、最近、入った伊藤と仲良くしている。
庶民同士、話が合うんだろう。
いつものように、席を取り合い、討論を始める。
そして・・・。
夜になり、討論会が終わらず、泊まることになった。
なつ「あ!伊藤さん!今宵はここにどうぞ。一緒に、お話をしましょうよ!」
伊藤「ありがとう!じゃあ・・・。」
何で、よく知らない奴を隣で寝かせるんだ?
何かあったらどうする!ったく。アイツは無防備過ぎる!
高杉「お前は、向こうだ!」
伊藤を端に退けて、俺はなつの隣に寝転ぶ。
なつ「ちょっと!いつも、私から、一番離れてるのに、何で、隣にいるのよっ!」
高杉「うるさい!今宵はここの気分なんだ!」
なつ「何それ?」
そして、俺達は、夜中まで討論を重ねて眠った。
コイツは隙がありすぎる。何かあってからでは、寝覚めが悪い。
それから、俺は、なつの隣で寝ることにした。
しばらくすると、なつがおなごの格好をしてきた。
全員「っ・・・。」
皆、息を飲んだ。
可愛い・・・。
松陰先生が誉めると、なつは真っ赤になって喜んでいる。
アイツ・・・。先生の事を好いているのか?
そう思うと、ギュッと心が痛くなった。
すると、二人は、出て行った。
高杉「アイツ・・・。先生を連れてどこ行ったんだ?呼びに行くか・・・。」
久坂「野暮な事をするな。」
高杉「はぁ?何でそうなる?」
伊藤「今、行ったら、抱き合ってるかもしれませんよ?」
高杉「抱き合ってるかもって・・・。そういう関係か!?」
稔麿「いや。まだだ。」
高杉「まだって?」
九一「おなつちゃんが先生を慕ってるのはわかるが・・・。松陰先生は、どうだろうな・・・。」
久坂「確かに、でも、先生は前に、おなつちゃんの婿を探してたぞ。」
高杉「婿!?」
伊藤「では・・・。おなつさんは・・・。ダメだったら私が慰めようかなぁ?」
久坂「お前、おなつちゃんの事、好いているのか?」
伊藤「可愛いと思いますよ。」
なんと!?伊藤め。
高杉「あんな男女が可愛いなんてお前の目は節穴だな。」
稔麿「俺も、可愛いと思うぞ?」
なっ。稔麿まで!?
久坂「確かに、おなごの格好をしたら見違える。いつもは男の格好をしてるから、意識しないが・・・。」
伊藤「お文さんがいるのに~。」
久坂「違っ!だから、あんな風におなごの格好をしたら先生も女を意識するんじゃないかということだ!」
全員「確かに!」
何なんだ!?
アイツがモテてる。
俺は、何故か、落ち着かない。
すると・・・。
先生が帰ってきた。
あれ?なつがいない・・・。
久坂「先生!おなつちゃん、何だったんですか?」
先生が少し落ち込んでいる。
松陰「あ?あぁ・・・。私の嫁になりたいと・・・。」
全員「おぉ!」
伊藤「で?」
松陰「私は、ダメですね。他の人が似合うと・・・。勧めてしまいました・・・。」
稔麿「で?おなつちゃんは?」
松陰「まだ、戻ってないですか?走ってどこかへ行ってしまって・・・。戻ってるとばかり思っていました。」
すると、稔麿が飛び出していった。
伊藤「おなごから求婚して、断られたら・・・。前に、自害したという人がいたと聞いた事があります。」
高杉「なっ!」
俺も、飛び出した。
走って、辺りを探す。
高杉「いない・・・。どこ行った?」
すると・・・。
いた!
高杉「オイ!・・・っ!」
二人は抱き合って、なつは、稔麿の背中に腕を回して接吻していた・・・。
何なんだ!あの女は!松陰先生に求婚してダメだったら、次は稔麿か!
俺は、踵を返して、塾に戻る。
久坂「あ・・・。高杉、おなつちゃんいたか?」
高杉「あぁ。先生!アイツのことで心を痛めなくていいと思いますよっ!もう稔麿に鞍替えしたみたいだ!」
久坂「はぁ?どういう事だよ?」
高杉「抱き合って、接吻してた!」
全員「接吻!?」
伊藤「まさか・・・!?」
高杉「この目で見た!」
九一「松陰先生に振られたからって、すぐにそんな事するだろうか?」
高杉「誰でも良かったんじゃないか?だから、先生も心を痛ませなくて良いと思いますよ。」
すると、二人が戻ってきた。
なつは、目は真っ赤だった。
先生の所で少し話をしていた。
すると、裁縫道具を持ってこちらへ来た。
なつ「稔麿さん、着物を貸して下さい。」
稔麿「あぁ。」
すると、稔麿の着物を縫い始めた。
久坂「お前、稔麿の嫁かよ。」
と、久坂が冗談を言う。
九一「本当だ!もう、くっついちゃえば良いのに。」
なつ「何を・・・。」
高杉「うるさい!お前も、ニヤニヤしながらこんな所でそんな事をするなっ!」
なつ「なっ!ニヤニヤなんてしてないっ!」
まるで、夫婦の様ではないかっ!
なつ「高杉どうしたんですか?」
久坂「ぷっ。やきもちだろ?」
なつ「やきもち?何で、やきもち?」
久坂「はははっ。まぁ、俺からは、何とも・・・。くくくっ。」
久坂め!余計な事を!
高杉「余計な事を言うなっ!誰が、こんな男女にやきもちなんぞ妬くかっ!」
今度は、俺が出て行く。
しばらくして戻ると、九一が呼び止める。
高杉「何だ?」
九一「稔麿君とおなつちゃん、接吻してたんじゃないんだって。」
高杉「は?でも俺は見た!」
九一「おなつちゃんの鼻緒が切れて、受け止めた稔麿君の着物に簪と髪の毛が絡まったんだって。それを取ってたらしいよ?その時に、着物が破れたから縫ってあげていたんだってー。」
高杉「なんだ・・・。そういうことか・・・。」
イライラしていた気持ちがスーッと軽くなる。
九一「高杉さん、おなつちゃんの事、好いてるの?」
高杉「だっ!誰があんな男女の事!」
九一「なら良いけどね~。でも・・・。稔麿君は好いてるんじゃないかな?おなつちゃんの事。戻って来てないってわかったら、一番最初に飛び出していったし。」
高杉「あいつらがくっつこうが、俺には関係ない!」
九一「くくくっ。そっか。じゃあ、いいや。」
俺がなつに惚れてる?そんな事あるわけない!
あんな男女!