君の隣
いつも、大組の家が集まり、食事会をする。
高杉「はぁ・・・。つまらん事をする・・・。」
それに高杉家の嫡男としていつも出席している。
膳の前に座ると芸妓が次々と入ってくる。
なつ「失礼します。」
上田「おぉ!秋風!こっちへ来い!」
なつ「はい。」
上田「こちらは、大組の方々じゃ。粗相のないようにな。」
なつ「かしこまりました。」
高杉「なつ・・・。」
何で、こんな所にいるんだ?
上田「皆様、この芸妓は、三味の腕は、無いが、他の物は逸品の芸を持っております。どうぞ、お楽しみ下さい。まぁ、この芸妓は、少々、生意気な所がありましてな。なかなか帯を解かん。難攻不落の城と同じです。さぁ、酌をして回れ。」
この上田という男、なつを気に入ってるようだ。
なつ「かしこまりました。失礼します。」
なつは酌のため、膳を回っている。
なつ「っ・・・。」
なつが俺に気付いて、一瞬、固まった。
なつ「高杉様、どうぞ一献。」
高杉父「あぁ。」
なつは父上に酌をする。
なつ「高杉 小忠太様は、お優しい素晴らしいお方と聞いています。」
高杉父「そうか?あ・・・。こちらは、嫡男の晋作だ。」
なつ「晋作様。初めまして。秋風と申します。どうぞ、宜しくお願いします。」
高杉「あ・・・。あぁ。」
なつ「寡黙なお方なんですね。ふっ。」
コイツは初対面ということにしたいらしい。しかも、寡黙って何だよ。
高杉「っ・・・。」
俺は、何故ここにいるのか気になり聞きに行った。
高杉「何故、お前がここにいる?」
なつ「少し、調べ物を・・・。邪魔をしないで下さいね?晋作様?」
高杉「何を・・・っ。」
何を調べる?と聞こうとすると、指で、俺の唇を押さえて微笑んだ。
その姿が妖艶で色っぽい。それに、三味線弾きの時より、綺麗に着飾っている。
上田「秋風!踊れ!舞を見せろ。」
なつ「かしこまりました。」
舞を踊るなつはとても、妖艶で色っぽく惹き込まれていた。
視線が合うとドキリとしてしまう。すると、他の奴らも同じような考えらしく、鼻の下を伸ばしている。
そして、しばらく、なつは、色々な所の席に呼ばれていたが、そろそろお開きとなった。
皆がぞろぞろ帰る中、上田が、なつの側に行く。俺も、少し離れた所でそれを見ていた。
上田「秋風。今宵は、もうしばらく、酒を飲もうではないか・・・。」
なつ「かしこまりました。」
あのスケベオヤジめ。俺は、なつの腕を掴んだ。
高杉「おい。帰るぞ・・・。」
なつ「無理。」
高杉「お前、この後からの部屋は行かないんだろう?」
なつ「高杉、心配してくれてありがとう。でも、今宵は、どうしても行かなきゃ・・・。」
アイツに抱かれに行くのか?
しかし、無理やり帰された。
俺は家に帰るも、ジッとしていられず、外に出た。
雨がザアザア降っている。
高杉「チッ。雨か・・・。」
俺は、傘を開き、料亭へ戻った。
すると、芸妓が出て来て、俺に気付いた。
芸妓「あらぁ!高杉様ではありませんか!どうですか?これから・・・。」
そう言って、俺の腕に自分の腕を絡ませて、胸にしなだれてきた。
俺は、腕を解き、女の肩を押した。
高杉「うるさい。邪魔だ。」
すると、頬を膨らませて、去っていった。
それから、数人にまた声をかけられる。
高杉「ここで待つのは、ダメだ。」
そして、塾の手前の町外れで待っていた。
しばらくすると、フラフラと歩き、鼻歌を歌っている奴が近付いてきた。
俺の存在に気付いて、殺気を纏わせて少しずつ近付いて来る。
俺も、刀に手をかける。
すると・・・。
なつ「高杉?」
雨の中、傘も差さず、歩いてるのは、なつだった。
高杉「お前・・・。それ・・・。大丈夫か!?濡れて、ビチャビチャじゃ・・って、お前、怪我してるのか?血の臭いが・・・。」
なつ「んー?大丈夫!全て、返り血だから。」
高杉「返り血って・・・。」
なつ「さっき、不逞浪士に襲われて・・・。斬ったの。」
高杉「お前・・・。人を斬った事あるのか?」
なつ「ううん。これが、初めて。」
コイツ酔ってる・・・。
なつ「何?」
高杉「ついて来い!」
なつ「はーい。」
俺は、なつの手を掴み、引っ張った。
宿に行くか?もう、閉まってるか・・・。コイツの家・・・。知らないな・・・。
だったら、あそこだな。幼い頃からの俺の隠れ場所。
なつ「ここは?」
高杉「ここは、俺の家の納屋だ。」
なつ「納屋でこの広さって、やっぱり、お坊ちゃんだなぁ。高杉は!」
高杉「うるさい!」
俺は、納屋を出て、使用人を呼びお湯を沸かしてもらった。桶に入れ持って行く。
なつに渡すと、手や顔を洗う。
月明かりでも、湯が赤いのがわかる。俺はまた、湯を変える。
このビチャビチャのままだと風邪をひくな。
高杉「着物を脱げ。」
なつ「はぁ?ヤダ!」
高杉「そんなボトボトでいたら風邪引くだろ!」
嫌がるなつの着物を引っ張り脱がした。
なつ「ちょっと!」
そして、手拭いをお湯で濡らしそれをなつに渡す。
なつ「あ・・・。ありがとう。」
後は着物だが、女物は・・・ない。俺の着物でいいか・・・。
高杉「それ着とけ。」
なつに俺の着物を渡す。
なつ「高杉の匂い・・・。」
なつは何故か着た着物を嗅いでいる。
臭いのか?
恥ずかしくなりゴシゴシと手拭いでなつの頭を拭いた。
高杉「あれから・・・。どうしたんだ?」
意味が分かってないようだ。
高杉「上田とどうなったって聞いてる!」
正直に言うと、
なつ「お酒をたらふく飲ませた。まぁ、結構、自分も飲んじゃったけど。はははっ。」
水を手に取り、飲ませる。
するとなつは一気に飲んだ。
なつ「はぁー!ありがとう。」
高杉「この酔っぱらいめ!」
俺は、我慢できずになつを抱きしめた。
耳に唇を付けて、口付けをした。
なつは驚いて、腕の中で固まっている。
何故、俺はコイツを抱きしめてる?何故、接吻をしている?
他の男がなつに触るのが嫌だ。俺のものにしたいんだ・・・。
俺はなつのうなじの辺りに指を滑らす。
すると、ビクッと揺れて、顔を離そうとするが、オレはそれを許さない。
何度も角度を変えて唇を重ねる。
唇を舌で舐めると、なつの唇が少し開く。俺は、舌を滑り込ませてなつのと絡ませた。
なつは、どうして俺を受け入れている?
コイツは松陰先生を好いていたのではないのか?
稔麿は?俺のこと、どう思ってる?
俺は、夢中で、なつの身体中に口付けをする。
そうか・・・。
俺は、コイツに惚れてるのか・・・。
なぁ、なつ・・・。
お前は、俺のことどう思ってる?
お前の気持ちがわからない・・・。知りたい。
目が合って、なつを見つめる。
なつ「どうし・・・。」
止めてと言われるのが怖くて、唇を塞いだ。
高杉「なつ・・・。なつ・・・。」
俺は、ずっと、なつの名を呼んでいた。
なつは、甘い吐息と共に、俺の名を囁く。
身体を重ねた時、なつが男を受け入れるのが初めてだとわかり、嬉しい気持ちと安堵の気持ちだった・・・。
いつも、女との情事が終わった後は、そのまま寝てしまうが、今宵は寝るのが惜しい。
何度も、口付けをして、抱きしめる。
離したくない。
気持ちを確かめないまま、お互い求め合った。