君の隣
そして・・・。
安政7(万延元)年3月3日早朝。
雛祭り。井伊を乗せた駕篭は、東海道にある宿を出発し、桜田門に向かった。
雪だ・・・。
ヒラヒラと大きな牡丹雪が舞っている。
辺り一面、白一色。
足跡で何人いたとか証拠が残る・・・。
しかし、私達が、待機場所で待っていると、雨に変わろうとしていた。
雨混じりの雪を眺めて、息を殺して待っていた。
今日は、雛祭りで、在府諸侯は祝賀へ総登城する。
私達は、大名の駕篭見物人に紛れている。
そして・・・。
来た!
雨で視界が悪く、供侍は雨合羽を羽織り、刀を袋に入れている。
「あれで、護衛とは笑える。」
なつ「確かに・・・。でも、気を抜くな。」
森殿が近づき、護衛を斬った。
黒澤殿がピストルを駕篭に向かって撃ちそれが合図になった。
私も抜刀して、護衛の奴らを斬った。
ザシュ。
そして・・・。
駕篭の近くに二刀流の奴。
カキィン。ギリリ。
「お前ら・・・。何奴?」
なつ「お前が知ることでも無い。彦根藩一の剣豪、川西 忠左衛門さん?」
私は、腹を蹴る。
しかし、二刀流とは初めて手合わせした・・・。
私は、間合いを伺う。
コイツ、さすがに名が通った剣豪・・・。
私は、飛び込んだ。
なつ「ヤァ!」
川西が両刃で受け止める。
なつ「安さんっ!今だ!」
すると安さんが川西の後ろからバッサリ斬った。
川西「卑怯な・・・。」
なつ「暗殺に卑怯とか言ってられないでしょ?サヨウナラ。」
ザシュ。パァン。
もう一人永田 太郎兵衞正備という二刀流もピストルでやられたようだ。
私は、永田を、引きずり、駕篭から離した。
駕篭を守る者を全て排除した。
稲田さんが、体当たりして駕篭に刀を突き刺す。
私も駕篭に向かって、体ごと体当たりして、刀を挿した。
「う゛・・・。」
中から、呻き声がした。
すると、他の浪士も駕篭の中に向かって刀を挿した。
駕篭の扉を開けて、井伊の髷を掴んで駕篭から引きずり出した。
井伊は虫の息。
私は、井伊の耳元で、
なつ「あの世で、吉田 松陰先生に詫びろ。」
井伊「お前・・・。あいつの・・・。」
なつ「流罪だったら、ここまでしなかったのにね・・・。私達はあんたを許さない。」
ザシュ。
シュパッ。
他の浪士も次々と斬っていく。
各々、色々恨みがあるようだった。
辺りの白は赤に染まっていた。
私達は、潜伏場所に戻った。
やはり、こちらも川西にだいぶやられたようだ。
怪我人の手当てをして、解散となる。
安さんがわたしの側に寄ってきた。
安さん「おい、名無し。お前・・・。おなごか?」
私は何も答えず微笑んだ。
この人達とは二度と会うこともない。
安さん「それに、吉田松陰って長州藩士だろ?ってことはお前は、長州藩の者か?」
なつ「安さん。さっきはありがとう。助かった。多分、俺一人だったら川西に殺られてた。もう終わった。じゃあ、達者でな!」