君の隣
江戸を出て歩いているといつもの道とは違う道を選ぶ高杉。
なつ「高杉!こっちじゃないの?」
高杉「萩へは帰るが、真っ直ぐは帰らん。」
なつ「どこへ行くの?」
高杉「『試撃行』をする!」
なつ「試撃行?」
高杉「あぁ!せっかく、柳生新陰流目録を授けられたのに、修行しなくてどうする!」
なつ「そっか・・・。って、目録授けてもらえたんだね!おめでとう。」
高杉「あぁ。」
高杉は少し赤くなり、手を握ってきた。
なつ「ちょっと!」
私が手を解こうとすると、
高杉「歩くのが遅い。」
そう言ってぷいと横を向く。
でも、高杉・・・。指を絡めてゆっくり歩いてる。
私・・・。こんな事されるといつまでもこの気持ちを捨てれないよ・・・。
高杉「お前も、剣術を磨け!予定では、北の方からまだ、行っていない所へ行こうと思う。」
なつ「へぇ!私も高杉に付いていこうかな。」
この前、桂さんと行った試衞館の沖田さん・・・。きっとあの人は今度、会うときには強くなってる。
あの土方って人も・・・。
そんな事を考えてると、ギュッと手に力を入れて握られた。
なつ「痛っ!」
高杉「何ニヤついてる?」
なつ「別にニヤついてない!」
私は試衞館の事を話した。
すると高杉は眉間にシワを寄せ、ペチッと私の額を叩く。
なつ「痛っ!何するの!」
高杉「本当にお前は、尻軽だなっ!次から、次へと!」
なつ「何で?」
高杉「お前は、目を離すとすぐコレだ!全く!」
そう言うと高杉は、手に力を込めて、歩いた。
北を目指す。
宿の部屋は、なんとか別々にしてもらう。
9月1日。
土浦城下に入った。
なつ「試合、頼んでくる!」
高杉「あぁ。」
なつ「すみませーん。剣術修行をしています。試合をお願い出来ませんか?」
道場主「すみません。水戸の老候斉昭様が最近、亡くなられたばかりでねぇ。昨夜から満城謹粛にしてるから、試合はどこも無理だよ。」
なつ「そうですか・・・。ありがとうございました。」
高杉「ありがとうございました。」
なつ「これじゃあ、仕方ないね・・・。」
高杉「あぁ・・・。次、行こう。」
そして、次の日、笠間城下に着いた。
そして・・・。
また、断られる。
なつ「次に行く?」
高杉「いや・・・。ここには、加藤有隣(桜老)様がおられる。」
なつ「加藤有隣様・・・。確か、藩政改革をして閉門したり、徳川斉昭様の雪冤(せつえん)運動を進められたりされた方だよね?」
過激な運動をされてた方だ。
なつ「高杉と気が合いそうだね。」
高杉「会うのが楽しみだ。」
そして・・・。
加藤「よう来た。」
50歳の長老様だ。
しかし・・・。とても楽しかった。
いつの間にか、夜中になっていた。
なつ「高杉様、そろそろ失礼しないと・・・。」
高杉「あぁ・・・。」
こういう場では、私は高杉の小姓ということになっている。
加藤「これを読んでみてくれ。」
高杉「これは?」
加藤「わしの詩文集じゃ。良かったら読んでみてくれ。」
高杉「ありがとうございます。」
そして、宿に帰り、
高杉「なつ!お前も読んでみろ!このお方は、素晴らしいお人だなっ!」
なつ「うん。素晴らしいお人なのは良くわかったよ!」
私達は、帰って、詩文集を徹夜で読んだ。
朝になり、詩文集を返しに行くとまた話し込んでしまう。
高杉「貴重なお時間ありがとうございました。」
なつ「ありがとうございました。」
加藤様は、私にも、お話をしてくれていた。
普段、小姓という立場なら、ここにいてはいけないところだ。
そして、私達は、笠間を出た。
宇都宮城下に来たものの、また試合を断られる。
高杉「どういう事だ・・・。何かあるのか・・・?」
なつ「ちょっと調べたんだけど・・・。江戸から道場荒らしが流れて来てるみたい。だから、用心してるのかも・・・。」
高杉「なるほどな・・・。どうするかな・・・。これでは、修行にならん。」
なつ「そうだね・・・。もう行こっか・・・。」
高杉「そうだな。」
そして、私達は、宇都宮でも何も出来なかった。