君の隣
「松陰先生が処刑されました!」
高杉・なつ「え?」
高杉「今すぐ・・・。」
「戻ろう」と言おうとしたら、なつに止められた。
なつ「ダメっ!高杉は、萩に帰って!私が調べて状況を把握する。そして、伝えるからっ!ね?」
高杉「っ!・・・わかった。」
なつの目が、お役目をしているときの目になった。
船を降りた後、なつはすぐ江戸に戻った。
なつ「高杉・・・。先生の教えをよく考えて!」
先生の教え・・・。
なつは、あの書状のことを言っていた。
先生は、『まず、遊学を済ませ、夫婦を作り、官に就き、ひたすらに父母の心を安心させよ。そして、信頼を得て、その後、正論正義を主張して失脚する。そして、人に会わず、学を修め、無視無欲の人になれば10年後、必ず大忠を立てれる日が来るよ。君なら出来る。』
高杉「なつ・・・。頼んだ・・・。」
そして私達は、別れた。
家に着いて、父上に挨拶しにいく。
すると・・・。
高杉父「よう戻った。」
高杉「はい。」
松陰先生はどうなったんだろうか・・・。
正直、上の空だ・・・。
しかし、父上から、とんでもないことを言われる。
高杉父「お前に縁談の話がある。」
高杉「縁談?」
そんなものまだするつもりが無い。
せめて30歳位までは、独身でいようと思っていた。
もし、30歳前に、夫婦になるなら・・・。なつが俺の子を身ごもったらの時だ・・・と思っていた。
そんな俺の事を無視して、父上は話を進める。
高杉父「相手は井上殿のおマサだ。」
高杉「おマサ・・・。」
おマサは幼なじみだ。
高杉「父上。私は、まだ、身を固める気はありません。それに・・・。」
高杉父「好いてるおなごがいるか?」
父上は知っているのか・・・。
俺は素直に頷いた。
高杉父「おなつか?」
俺は、父上を見つめて頷いた。
父上は、「はぁ」と溜め息をつく。
高杉父「お前は・・・。おなつの本当の姿を知っているのか?」
高杉「本当のなつ・・・?」
なんだそれは・・・。
俺が何も言わずにいたら、父上は誰かを呼んだ。
「失礼します。」
女?コイツは誰だ?
綺麗な女・・・。誰かに似ている。
すると、
「初めまして?富と申します。なつの・・・。母です。」
高杉「っ・・・。母?」
富「私は、忍びの末裔です。今は、情報屋。あの子が、長州の隠密隊だなんて、あの子は良い地位までいけたのですね?ふふふっ。でも、こうやって藩主に就くのは珍しいんですけどね?伊賀とかだと藩主に仕えてるみたいだけど。私たちは基本はお金を貰えれば敵味方なんてどうでもいいの。」
妖艶に、色目で俺を見る女・・・いや、なつの母。
富「それに・・・。長州の大組の嫡男を落とすなんてねぇ。まぁまぁ。でも、私達からすると、あなたは捨て駒・・・。せめて、藩主の側室くらいにはねぇ?・・・。それとも、あなたを使って上に行こうとしているのかしら?」
高杉「なつはそんなおなごではありませんっ!」
富「私達は、お金さえ貰えれば何だってしますよ?暗殺。情報売り。あなたもなつに呼ばれて戻ったでしょう?」
確かにそうだが・・・。
高杉「なつは、金だけで動く女じゃない!」
富「ふふふっ。惚れてるのね?でもね、あなたはおなつのことなーんにもわかってない。」
すると、煙のようになつの母は消えた。
高杉父「いいな!あの女とお前では、身分が違いすぎる。あんな女は忘れ、おマサと夫婦になるのだぞ!」
俺は、部屋に戻り、怒りが出る。
すると、なつの母が現れた。
富「なつの情報を買わない?」
この女からなつが生まれるなんて想像出来ない!
高杉「いらぬ。」
富「へぇ。じゃあ、おなっちゃんがあなたに託した気持ちもわからずじまいね。」
嫌な言い方だ。
なつが俺に託した想い・・・。
なつの気持ちを知りたい・・・。
高杉「わかった。買う・・・。」
富「毎度あり!」
すると、なつの母は、紙を出した。
見ると、松陰先生の字だ・・・。
そこには何かの図式が書かれている。
高杉「『おマサさん』家を守る→『高杉君』←政『なつ』→志・・・。」
まさか、なつは、俺を政で支えると?
家に入れば、家を守らないといけない。
逆の矢印になった場合、高杉君、苦しむとまで書いてある・・・。
富「究極の愛ね?」
なつ『先生の教えをよく考えて!』
そう言われたのを思い出す。
先生は、早く夫婦を作って、親を安心させろと・・・。
高杉「ありがとう。俺は、縁談を受ける。家のため子孫を残す責任がある。でも・・・。なつのこと・・・。」
顔を上げると、もうなつの母は消えていた。
万延元年1月18日。俺とおマサの婚礼が行われた。
高杉「これからは、高杉家の嫁としてよろしく頼む。」
おマサ「はい。よろしくお願いします。」
なつならどう言ってただろうか?
『高杉も夫なんだから、一緒にしてよっ!私にばかり押しつけないでよね?』
高杉『押し付けてなんぞない!当たり前の事を言ってる!』
『そんなの知らない!私、政に参加するからっ!私も行くっ!』
高杉『おまえは嫁だろ?家を守れ!相応しい嫁になれっ!』
『ヤだ!私にだって、志があるんだからねっ!邪魔しないで!』
色々思い浮かべてしまう。
高杉「ふっ。」
でも、現実は違う。
横に居るのはなつじゃない。
横には、一人で笑う俺を、訝しげな目で見るおマサが座っていた。