君の隣
求婚そしてモテ期
私は、京へ来た。
先ずは、兄上の勝太郎を訪ねた。
勝太郎「おなつ!久しいな!」
なつ「兄上っ!」
私達はギュッと抱きしめ合う。
このふた月前の文久元年の正月で私は、20歳になる。
勝太郎「お前はいつまでもわらしだな。しかも・・・。行き遅れたか・・・。」
はぁ・・・。と溜め息をつく兄上。
そうおなごの婚礼の適齢期は18歳。20歳はギリギリだ。
なつ「まだ、行けますー!」
勝太郎「誰か、紹介しようか?」
なつ「いいよ。いらない。」
勝太郎「お前なぁ。年を考えろ!」
なつ「独りでも良いもん。」
勝太郎「また、そんな事を!」
なつ「何だか勝兄ぃ、小言が多くなってるよ?」
勝太郎「多くもなる!俺は、お前の父親代わりだからな。お前、長州の大組の嫡男に弄ばれたんだろ?確か、名前は・・・。高杉・・・。」
なつ「何で、そんな事、知ってるの!?しかも、弄ばれてない!」
勝太郎「俺を誰だと思ってる?京イチの情報屋だぞ。」
なつ「そうでした。」
勝太郎「なつ・・・。お前、誰か好いてる者はおらんのか?」
なつ「・・・。」
私の好いてる人は、高杉だ・・・。
私の表情でわかったのか、勝兄ぃは、大きな溜め息をついた。
勝太郎「いいか!次、求婚された男と、夫婦になれ!わかったな!」
なつ「無茶を言わないで!」
勝太郎「無茶なんて言ってない!」
なつ「勝にぃ!私、政をしたいの!だから、家に入れないっ!」
勝太郎「は?政?」
なつ「そう!今は、長州のお殿様の命で、特別隠密隊っていうお役目まで頂いた!」
勝太郎「長州藩主の・・・。お前、藩のお抱えの忍びになったのか?」
なつ「私は、あのお方の為なら命も惜しくない。」
勝太郎「そうか・・・。まぁ、頑張れ・・・。」
そして、私はあるところに向かった。
一件の宿。
いた!
なつ「稔麿さんっ!」
稔麿「おなつちゃん・・・?」
私は抱きついた。
稔麿「っ!」
なつ「すみません!痛かったですよね!」
離れようとすると、ギュッと抱きしめ返された。
なつ「わっ!」
稔麿「久しいな!おなつちゃん!」
なつ「はい!お元気でしたか?全然、お会いできなかったから、寂しかったです!」
稔麿「俺も会いたかった。」
少し、離れると、また、引き寄せられ抱きしめられた。
私も、稔麿さんの胸に顔を預けて、稔麿さんの背中に腕を回してギュッと抱きしめた。
しばらく抱き合っていたが、稔麿さんは、一向に離してくれない。
ちょっと、長いよね・・・?
私は呼びかけてみる。
なつ「稔麿さん?」
すると、ハッとしたように稔麿さんは離れた。
稔麿「す・・すまない!会えて嬉しくてつい・・・って、何を俺は・・・っ。」
なつ「いいえ。全然。私も会えて嬉しいです。」
稔麿「そ・・・。そうか。」
そして、部屋に案内してもらい、これまでのお互いのことを話していた。
いつの間にか、夜も更けた。
なつ「あぁ!しまった!宿も決めてないのにっ・・・。こんな刻限じゃ、どこも宿自体、開いてない。」
野宿かぁ・・・。
長州藩邸に行ってみようかな?
すると、稔麿さんが、笑いながら、
稔麿「ここに泊まれ。松下村塾では、普通に寝てただろ?」
なつ「良いんですか?」
稔麿「あぁ。」
そして、布団を敷き、横になる。
稔麿「なぁ、なつ・・・。」
なつ「はい。」
稔麿「高杉の事だが・・・。」
なつ「奥方が出来たんですよ?萩にも帰ったし、良かったですよね。きっと、もうすぐ、ヤヤコも出来るんじゃないですか?」
ジワジワと目が熱くなる。
稔麿さんが、起きた。
私の布団に入ってきた。
なつ「っ!?」
そして、抱きしめられた。
私は、体を固まらせた。
何で?これは一体何!?
稔麿「涙・・・止まっただろ?」
え?涙?
そういえば、止まってる。
なつ「と、止まりました・・・。」
稔麿「前もこんな事があったな。あれは、おなつちゃんが松陰先生に振られた時。」
そうだ!
なつ「下駄の鼻緒が切れて・・・。」
稔麿「簪が刺さった。」
なつ「そうでした。ふふふっ。あの時も、今回もやっぱり、稔麿さんに慰められてる。」
私はギュッと稔麿さんを、抱きしめた。
なつ「それで、こうやって涙を止めてくれたんです。ありがとうございます。稔麿さんは、いつも、私の味方で・・・。」
抱きしめられてるとその温もりで、だんだん眠くなる。
そして、私は、意識を手放した。