君の隣
悪巧み
次の日、いきなり、高杉が現れた。
なつ「うわっ!驚いた!」
すると、高杉は、私の腕を掴み、
高杉「行くぞ。」
と言って、私を引きずって行く。
なつ「ちょっ・・。ちょっと!どこへ行くの?」
高杉「亡命する。」
(※亡命:脱藩)
今、何て?亡命って聞こえたけど・・・。
なつ「何て?」
高杉「亡命だ。ぼ・う・め・い!」
なつ「何で!?」
高杉「殿にわかって頂けなかった!行くぞ!」
なつ「私も!?」
高杉「あぁ・・・。当然だ。俺の小姓。」
勝手なことを!
私は抵抗してみる。
なつ「そんなのなった覚えが無い!」
高杉「そうだったか?」
なつ「それで、どこへ行くの?」
高杉「先生の墓参りをしてから、水戸へ行く。」
なつ「水戸?」
高杉「あぁ。水戸だ。尊皇攘夷で賑わっている荒くれ者の多い所・・・。」
なつ「あんたは、大組で藩の真ん中にいるのに勿体無いよ!政が出来る生まれなのに!他の人達はそこに行きたくても行けない!あんたが私達の声を・・・っ。」
口付けされてる・・・。
黙らせる口付け・・・。
高杉「黙れ。もう決めた事だ・・・。攘夷を唱えた以上、長州が動かなくてどうする?」
なつ「私は・・・。高杉について行く。」
近くにいないとダメな気がする。
先生の墓参りを済ませていると、後輩の品川さんも墓参りに来ていた。
品川「高杉さん?おなつさんも!?」
高杉「俺らに会ったことは、他言無用だ・・・。わかったな?」
品川「かしこまりましたっ!」
私達は、9月2日。笠間に到着する。
2年前の、試撃行の時に、顔見知りになった、加藤 有隣様の元へ着いた。
私は、2年でよく訪れていたので加藤様とは、仲良くしてもらっていた。
加藤様は、高杉の話を興味深く聞いていらっしゃった。
そして、高杉が作った、『形勢略記』を書き写していた。
なつ「加藤様。」
高杉が厠へ行くと席を立ったときに、小声で言う。
加藤「どうした?」
なつ「長州の桂様に書状を書いて欲しいのです。高杉が脱藩の罪に問われないようお願いして欲しいんです。そして、時期をみて誰かを迎えに寄越して欲しいんです。お願いします!」
あ・・・。戻ってくる・・・。
なつ「お願いします。」
加藤「わかった。俺も、高杉殿が、脱藩するなんて、そこから反対だ。」
そして、高杉が戻って来た。
そして、加藤様と二人で説得した。
なつ「今、動く事は、得策じゃない。そう思わない?」
高杉「・・・。わかった。」
桂さんの計らいもあり、坂上忠介様が迎えに来てくれた。
なつ「坂上様、ありがとうございます。」
坂上「いや。構わぬ。」
高杉「では、参る。帰るぞ。」
そして、私達は、萩へ帰った。
松下村塾の近く。
なつ「あ!」
高杉・・・?
なつ「たかす・・・っ。」
呼ぼうと思ったら・・・。
高杉と奥方・・・。
仲良く微笑んでいた。
胸が苦しい・・・。
私は、踵を返す。
なつ「っ・・・ぐずっ。」
涙が出てきた。
上を向いて、涙が零れないように・・・。
「大丈夫?」
この声は・・・。
なつ「稔麿さん・・・。」
稔麿「おなつちゃん。大丈夫?どうし・・・。あぁ・・・。」
稔麿さんは、私の涙の訳を理解したらしく、私の腕を引いた。
なつ「キャッ。」
稔麿さんに抱きしめられた。
涙がどんどん零れる。
なつ「ふえっ・・・。ぐずっ・・・。稔麿さんっ・・・。苦しい・・・っ。こんな事を・・・。ひっく。稔麿さんに言うなんて、私、最低です・・・ぐずっ。」
わかってたのに・・・。
見ると苦しい・・・。
稔麿「そうだよね・・・。苦しいよね・・・。」
稔麿さんは、私の頭を胸に寄せ、ギュッと抱きしめた。
私はしばらく、稔麿さんの腕の中で泣いた。
終わりにしよう。
この気持ちは、もうサヨナラだ・・・。
なつ「稔麿さん、ありがとうございます。もう、大丈夫です・・・。いつも、すみません。」
稔麿「俺は、おなつちゃんのこういうのに出くわして慰めるお役目なのかもね。」
なつ「そうですね。あ!甘味、食べに行きませんか?」
稔麿「行こう。」
すると、手を取られた。
なつ「あ・・・。」
手を離そうとしたら、ギュッと強く握られた。
私達は、手を繋いで、甘味処へ行った。