君の隣
女将「ごめんねぇ~。三味弾きの子が、急に熱出したんだよぉ・・・。」
最近の流行の風邪で他の芸妓(げいぎ)さんも手が離せないらしい。
助っ人が明日にしか来ないということで今日だけ三味弾きになる。
潜入はよくしてるから、慣れてるけど三味線は少し苦手・・・。
まぁ、私が回らせてもらう所は、皆、酔って、芸妓さんと遊ぶのが目的だから、三味線が上手いとか下手とか聞いてない客ばっかりだから、別に良いけど・・・。
私は、何ヶ所が部屋を回って三味線を弾いた。
そして・・・。
なつ「失礼します。」
顔を上げて、旦那様(客)を見て固まった。
なつ「げ・・・。高杉・・・。」
その声が聞こえたのか、高杉も私を見て固まった。
なつ「失礼しましたー。」
スパン。
ヤバい!こんな所で、こんな事してるのバレたら、なんて言われるかわからない。
なつ「女将さんっ!あの部屋だけは行けません!他の部屋に行かせてもらうので代わってもらえませんか?」
女将「でもねぇ。高杉様は上客なんだよぉ。しかも、他にも上客がいて、高杉様は変なの入れるとすぐ怒るんだよ。」
なつ「だったら、余計に私の三味線じゃ・・・。」
そう嘆願していたら、女将が高杉に呼ばれて、部屋に入っていった。
そして・・・。
なつ「・・・。失礼します・・・。」
高杉は、私を部屋に呼んだ。
高杉「お前、名はなんと申す?」
高杉は、ニヤニヤしながら聞いてくる。そう、まるで、敵の弱みを握ったような・・・。鬼の首を取ったような。そんな顔だ。
腹立つ~~!なんっで、今日に限って来るかなぁ!
私は、唇の端をひきつかせながら、ニッコリ笑う。
なつ「私の名前は、秋風と申します。」
高杉「へぇ。秋風ねぇ~。“なつ”に“秋風”お前の名前は、よく四季が入るんだなぁ・・・。」
絶対、私がなつだってわかってて言ってる。
高杉「では、お前の三味線の腕を見せて貰おうか?」
何なの!コイツっ!
女将さんの顔が無かったら斬ってる。
私は、三味線を弾く。
ポロロン、ポロン。
高杉「ぷっ。お前っ。よくそんなので、三味弾きって言えるな。くくくっ。」
なつ「う、うるさい!」
思わず、そんな事を口走った私を見た他の芸妓さんは、顔を青くした。
高杉は、そんな事は気にしないといったように、肩を揺らして笑いながら、私の三味線を聴いていた。
くっそ~。覚えとけよ。何かで、この返しはさせて貰う。
すると、高杉は、私の後ろに回り込んで、私の背後から手を回してきた。
なつ「ちょっとっ!何するのっ!」
高杉「何を勘違いをしてるんだ?お前・・・。」
なつ「勘違いなんてしてないっ!」
すると、高杉は、私の指の上に手を置いて、指を押して、反対の手で私のバチを握る上から、手を握った。
そして・・・。
ポロロン、ポロロン。
と、一緒に三味線を弾いた。
耳に、高杉の息がかかり、胸が高鳴る。
あ・・・。でも、上手く弾けてる。
・・・ポロン。
弾けた!
私は首を捻り後ろを首だけ向いて、
なつ「高杉!ありがとう!今まで難しくて出来なかった所が弾けた!」
すると、思ったより、顔が近くにあり、顔が熱くなる。
高杉「あ・・・あぁ。」
高杉も赤くなって、サッと離れた。
しかも、高杉って言っちゃったし・・・。
なつ「だっ・・・。旦那様、ありがとうございました。それでは、失礼致します。」
そして、私は部屋を出た。