君の隣
狂挙
私は、京に来ていた。
家茂公が上京した。
我らの殿が、鷹司関白を動かして、将軍を、上京させたのだ。
将軍は、天子様の臣下であると、民に見せつけた。
その場を仕切っているのは、長州藩・・・。
今の政の中心は、京で行われていた。
なつ「あ・・・。高杉、来たんだ・・・。」
高杉「あぁ・・・。」
なんか、元気ない?
こんな事、一番に喜びそうなのに・・・。
私達は、隣で、家茂公の行列を見ていた。
え・・・?
手を繋がれた・・・。
なつ「高杉・・・?」
私は、何故だか、その手を、離せなかった。
もうこの気持ちにサヨナラしたのに・・・。
握られた手に力を込めた。
すると、高杉は、見物人を縫うように歩いていく。
なつ「ちょっと!?どうしたの?高杉?」
小走りで、手を繋ぎ、街を横切る。
人が、少ない寺の境内。
なつ「はぁ・・・。はぁ・・・。高杉・・・っ。どうし・・・っ。」
視界が、塞がり、抱きしめられてると気付いた。
何が起こってるのかわからない・・・。
高杉「なつ・・・。俺・・・っ・・・。ズズッ。」
泣いてるの?
どうして?
しかも、お酒臭い。酔ってる?
いつもの自信家の高杉とは、違う・・・。
儚く脆い・・・。
何が彼をそうさせているのかわからないが、高杉が壊れてる。
苦しんでる。
『今、離れてはいけない。』
そう思った。
高杉が落ち着くまで、私は、高杉の腕の中にいた。
しばらくすると、落ち着いたようで、ポツリポツリと高杉は、話し出した。
高杉「殿が・・・。殿に、長州に戻って欲しいと助言した。殿は、京で、政をし、攘夷を行うと、仰っている。しかし、俺は、長州に戻って、武力を備えて、長州一体となって、夷人と戦う意志をもって欲しいと・・・。」
なつ「なるほど・・・。それで、わかってもらえなかった・・・。」
高杉「あぁ・・・。」
なつ「そっか・・・。それで、高杉は、お酒に溺れてるの?いつから?」
高杉「・・・。」
なつ「いつから?」
私は声を強くして聞いた。
高杉「亡命に失敗してから・・・。あれだけ、大きな事を言ってすぐ戻るだなんて、情けないし、家だって、取り潰しには、ならなかったが・・・。」
なつ「そっか・・・。でもお家には何もなかったんでしょう?」
高杉「あぁ。」
なつ「確かに、高杉の言うことは、わかる。私も高杉を手伝うよ?何でも言って?」
高杉「礼を言う・・・。」
そう言って、また、抱きしめられる。
しばらくして、高杉は、国許での政務役を承ったが断った。
そして・・・。
なつ「え・・・?」
呼び出されて、そこに立っていたのは、くりくり坊主頭で法着を着て、短刀を持った、高杉だった。
なつ「ど・・・。どうしたの?それ・・・。」
高杉「名を東行と言う。」
なつ「と・・東行!?」
高杉は、少し落ち着いていた。
高杉「10年の暇を頂いた。どこか、閑静の処に行きたいと願い出て許された。晴れて、浪人だ。」
まだ信じられない。
なつ「そ・・・。そう・・・。それは、良かった。」
高杉「そこでだ。なつ・・・。一緒に来い。」
なつ「え?どこに?」
高杉「さっきも言っただろう?閑静な処だ。お前の暇も一緒にもらっておいた。」
なつ「えぇ!?何で、そんな勝手な!」
高杉「お前が、俺を手伝うと言っただろう?」
なつ「言ったけど・・・。何するの?」
高杉「まだ、言えない。」
何度、聞いても、高杉は、答えてくれなかった。
私は、稔麿さんに会いに行った。
なつ「稔麿さん!」
私は、やはり、高杉の事が好きな事。彼の側にいたいことを告げた。
稔麿「そうか・・・。おなつちゃん。俺だって、君への気持ちは生半可なものじゃない。今まで待てたんだから、これからも待ってる。」
なつ「でも・・・。私は・・・。」
稔麿さんを殿方として見れない。
稔麿「俺が、おなつちゃんの事を想ってるのは、俺の自由だ。だから、おなつちゃんでも、止める権利はない。そうだろ?」
よくわかる。
私だって、奥方がいる高杉を好いてるんだから・・・。
私は頷いた。
そして、ギュッと抱きしめられた。
その腕からは、私のことを、大事に想ってくれているのがわかった。