君の隣
高杉がもう一つ進めていたのは、元々の藩の軍の立て直しだ。
これは、大組のれっきとした武士の精鋭部隊。
私がいた隠密隊もこの正規軍の中の一つだ。
先鋒隊(正規軍)は壇ノ浦砲台を守り、奇兵隊は、前田砲台を守っていた。
そして、先鋒隊2組が下関に来ていた。
しかし・・・。
奇兵隊が結成されて、一度も戦いは行われていない。
それは、良いことだと思うが、血気盛んな若者は、力を持て余して、ついには、街中で、先鋒隊と些細なことで、対立するようになる。
なつ「皆、最近、先鋒隊といざこざが絶えないって報告が来てる。いい?絶対に相手の挑発に乗ったらダメよ。」
銀次「でも!あいつら、わざと腹立たしい事ばかり言ってくるし、俺らを見下してる!」
全員「そうだ!そうだ!」
田沼「俺らだって我慢の限界だっ!」
なつ「じゃあ、向こうと喧嘩した奴は、この隊を抜けてもらう。」
全員が黙る。
銀次「何でだよっ!やられっぱなしなんて・・・っ。」
「そんな事もわからないのか?」
冷ややかな声で戒めたのが、下田君。
銀次「何がだよっ!?」
下田「俺らが、何か言われて、怒るということは、潜入先で、同じようなことが起こったとき、命が危なくなる。しかも、捕まったら、情報を漏らす可能性もある。いつでも冷静にいろってことだろ?そんなのもわかんねーのか?バカが。」
銀次「何だとぉ!」
この子のわざと怒らすような口調、高杉に似てる。
私は、笑いを堪えるのに必死。
田沼「隊長?何を笑ってるんですか?」
いつの間にかバレているようだった。
なつ「ごめん。あまりにも、松下村塾にいるみたいだったから!下田君!正解!私達が、冷静を無くなったらお終いだと思え!だよ。だから、皆、喧嘩せずに、仲裁役に徹すること!」
田沼「どうしても、我慢できないこともありますよね?その時はどうするんですか?」
なつ「私なら・・・。相手を徹底的に調べる!」
田沼「弱みを握る?」
なつ「まぁ、そんな感じ。でも、それはあくまで、仲裁するだけ。それを脅しの材料にしてゆすったりすると、それはまた、恨みを買うから気を付けてね。」
そして、私達の隊は無視をすることに決まった。
しかし・・・。
8月16日に恐れていたことが、起こってしまった。
殿が下関防御を視察しに来られた。
先に、来られたのは、こちらの前田砲台の方だった。
殿「おぉ!おなつ!お前は、奇兵隊隠密隊の隊長になったんだな。」
なつ「はい。皆、優秀で、助かっております。」
殿「そうか、そうか。皆も、頑張ってくれ。」
全員「はいっ!」
殿「おなつ。お前に、見合いの話もあるのだが・・・。今は、無理だな。」
なつ「え・・・。見合い!?」
殿「あぁ。面白いおなごがいると、酒の席で、話したら、是非にと言うのでな。落ち着いたら、考えでおいてくれ。それではな。縁談にしてしまっても良いのだが・・・。」
なつ「あ・・・。ありがとうございます。」
高杉は知ってるの?
高杉の気持ちは?・・・って、関係ないか・・・。どうでもいいよね。私の縁談なんて・・・。
銀次「す・・・。すげー!と・・・っ。殿にお言葉をかけてもらったっっ!!!」
皆の士気が上がってる。
私は嬉しい気持ちと縁談の事で素直に喜べなかった。
銀次「でも、隊長!縁談って?」
なつ「さぁ?初めて聞いた。」
銀次「俺、嫌だーっ!」
私に抱きついてくる。
なつ「ちょ・・ちょっと!銀ちゃん!」
田沼「俺だって・・・。」
皆・・・。私が、離れるのそんなに嫌と思ってくれてるの?
私は、銀ちゃんを始め、皆を抱きしめた。
なつ「ありがとう!ありがとう!」
すると・・・。
バシッ。
なつ「痛っ!」
高杉だった。
高杉「何してんだ?若い男まで色目か?」
なつ「はぁ?あんたじゃないわっ!若芸妓好き!」
高杉「そりゃ、若い方が良いだろうが。この年増!」
なつ「なっ!」
すると、銀ちゃんが、私を庇ってくれた。
銀次「総督!なつ隊長、凄いんです!殿から直々の縁談が来てるんです!」
なつ「あっ!まだ、その情報は喋っちゃだめでしょうが!確信がないのに!」
銀次「あ・・・。」
下田「バカ・・・。」
高杉の眉がピクピクしている。
高杉「どういうことだ?」
なつ「殿も今は無理ってわかってくれてるから、放り出さないから!」
高杉「そういう意味でない!ちょっと来い!」
私は引きずられるように、高杉について行く。
そして、部屋に押し込められる。
なつ「痛いよっ!」
高杉「さっきの話、詳しく話せ!」
なつ「さっきのって?」
高杉「縁談がどうとかいうのだ!」
何で、そんなに怒るの?
なつ「殿がお酒の席で、私のこと話したら、気に入った人がいるみたいで・・・。あ・・・。でも、今は無理とわかって下さっていたから、そのうち、忘れられるんじゃないかな?」
高杉「そんなわけあるかっ!殿からの縁談という事は、どこかの藩主だぞ。」
そうだろうけど。
高杉「お前が、どこかの姫・・・。似合わない。お前は、その岡っ引きか芸妓の姿までが、お似合いだ。」
なつ「失礼過ぎっ!」
すると、ギュッと抱きしめられた。
え・・・?
何で?
なつ「ちょっと!」
ジタバタしても離してくれない。
そして・・・。
口付けられた・・・。
まるで、自分の物だと言っているような・・・。
高杉は、私のことどう思ってるの?
わからないよ・・・。