君の隣
本来であれば、若殿は、壇ノ浦砲台にも行くはずだった。
しかし、日が暮れたので、先鋒隊の壇ノ浦砲台は、延期された。
それに怒ったのは、先鋒隊の奴らだった。
そういう日程を組んだ使番、宮城 彦助がわざとやったのだと言い出した。
宮城さんは、たびたび、先鋒隊を侮辱する発言をしていたらしく、先鋒隊に恨みを買っていた。
そして、宮城さんを襲撃するという話になったらしい。
高杉は、私の友人の入江 和作さんという商人の家を宿にしていた。
私は、奇兵隊の本陣、阿弥陀寺にいた。
すると、赤祢さんが、飛んできた。
なつ「あれ?赤祢さん、どうしたの?」
私達は、他の隊の子達と隊対抗で双六をしていた。
赤祢「はぁ・・・。はぁ・・・。大変だ!宮城さんが、先鋒隊に襲われ・・・。今、高杉さんが行った。応援頼む!」
隊士「何だとーっ!あいつら、逆恨みしやがってっ!」
なつ「皆!冷静になりなさい!」
私たち四番隊は止めに入ったが、皆、行ってしまう。
まずい!殺し合いになる!
私もその場に急いだ。
すると、皆が斬り込んでしまっていた。
先鋒隊は逃げ出したが、病床に伏せっていた、先鋒隊士の蔵田 幾之進を斬殺してしまった。
そして、辺りの武器を破壊して、仕返しがあると考え、阿弥陀寺に戻り、武装して待った。
私はあることに気付く。
なつ「源さんがいない!」
源さんとは、奇兵隊輜重(しちよう)方小使いの奈良屋源兵衛さん59才。私を娘のようだと、よく話してくれていた。
私達、四番隊は、捜索をした。
なつ「皆、気を付けて!相手に捕まったら、腹いせで殺される可能性が高い。もし、危険と思ったらすぐ、逃げて。わかったね?」
全員「はいっ!」
そして、2人一組で、捜索する。
なつ「源さん・・・。どうか、無事でいて・・・。」
すると・・・。
暗闇の中・・・。横たわる何かを見つけた。
下田「隊長・・・。あれ・・・。」
なつ「うん・・・。囮かもしれないから、少し、探ってくる。」
私は、周りに敵がいないか、確認する。
そして、下田君の所に戻り、
なつ「大丈夫。行こう。でも用心の為、気を抜かないで。」
下田「はい。」
私達は、“何か”の前に行く。
なつ「っ!源さんっ!・・・死んでる。」
源さんは、壮絶な仕打ちを受けたようだ。
下田「っ。」
なつ「連れて行こう。」
連れて帰ると、私は、高杉に呼び出された。
なつ「ごめんなさい。遅れました。」
隊長、総長、総督とで会議を開く。
高杉「やはり、俺が、腹を切る。」
隊内でのイザコザ。総督の管理責任だ。
わかってる・・・。わかってるけど・・・っ。
こんなのってないよ・・・。
皆、黙っている。
なつ「介錯は私に、させてよ・・・。」
高杉「おなごのお前が介錯など許されるわけないだろうが。」
赤祢「そうだよ・・・。おなつちゃん。おなごに介錯は無理だよ。」
なつ「そこら辺の奴よりかは、痛くないと思うけど?」
高杉「痛くないとか、既に、腹を割ってる時点で痛いと思うぞ。なつ、お前にこれを頼みたい。」
渡されたのは、奥方宛ての書状。
なつ「最低・・・っ。」
高杉「頼んだ・・・。今すぐに・・・。」
何か、覚悟している。まさか、この場で皆、切腹!?
なつ「皆で、私を、放り出して何するつもり?」
全員「っ。」
やっぱり・・・。
なつ「切腹でもするの?どうして私は、除け者?私だって、隊長を任されてるのに・・・。」
赤祢「おなつちゃんは、おなごだし!」
なつ「そっか・・・。だったら、今から、先鋒隊の奴らを全員暗殺しに行きます。源さんのこともあるし。ここで、全員切腹するなら頭は私でしょう?」
高杉「何を言ってる!」
なつ「私は、今回、起きたことを、若殿に報告しなくちゃいけない。もし、私が、若殿のお達しを持って帰るまでに変なことしようとしたら、先鋒隊の奴らは一人残らず、私が片付ける。いい?」
高杉「お前は、やると言ったらやる。わかった。その代わり、俺のこの書状も持って行ってくれ。」
私は、高杉の書状二つを持ち、本陣を出た。
高杉の奥方宛ての書状は、銀ちゃんに頼んだ。
私は殿に高杉の書状を渡した。
なつ「確かに、総督の管理責任では、ありますが、今、彼を失うのは、藩が滅んでしまいます。どうか、お願いします!」
若殿「父上に、伺う。おなつ、行ってくれるな?」
なつ「はい!」
若殿「そして、本陣には、使いの者を出す。」
私は、馬を走らせ、藩主敬親様の所へ行った。
なつ「夜分に申し訳ありません!」
敬親「おなつ、相変わらずのようだな。」
なつ「はい。」
敬親様は、世子様(若殿)の書状を読み、しばらく、考えた。
敬親「おなつの意見は?あと、この事件の裏側も教えてくれ。」
なつ「はい。」
私は、ここまでの経緯、そして、どうしてこうなったのかを説明した。
私の胸は張り裂けそうだ。
敬親「おなつ、今から書状を書く。少し待て。」
なつ「はい。」
そして・・・。
敬親「これを頼む。」
一つの書状。
私の泣きそうな顔を見て、敬親様は、優しく微笑まれた。
敬親「おなつの心配していることはない。」
なつ「え?」
それって、高杉の切腹希望を止めろと言って下さるの?
敬親「なぁ。おなつ、ただこの件で、誰かが責任を負わなくてはならん。それは、今回、恨まれていた宮城にあるとわしは思う。しかし、高杉にも責任がある。わかるな?」
なつ「はい。」
敬親「だから、宮城に関しては、この引き金となった責任として、切腹。そして、総督である高杉は、政務座役を免ずる。総督に力を入れろと伝えよ。」
なつ「ありがとうございます!」
私は深々と頭を下げた。
私は部屋を急いで出て行った・・。